国際税務特有の税制

国際税務で使われる税制は、専門家以外にはなかなか分かりずらいのが現状です。更にTP、PE、BEPSといった英語特有の短縮用語が用いられる事も多く国内税務を知っている人でも難解な税制が多く存在します。

そこで、ここでは中小企業が知っておくべき国際税務特有の税制について分かり易く、簡単に、説明をしてみたいと思います。

移転価格税制

企業活動がグローバル化すると、日本企業が国外に子会社や関係会社を設立するようになります。例えば、親子会社間の取引は、身内同士の取引となりますので、取引価格についてはある程度恣意的に決定する事が可能になります。国外の子会社との間で恣意的な価格で取引が行われた場合、結果的に利益(所得)がどちらかの国に移転する事になります。特に日本よりも税率の低い国に利益(所得)を移転する事で不当に税金を減らす事が可能となってしまいます。

そのため、不当に利益(所得)が海外に流出することを防ぐため、国境を超える親子会社や関係会社間の取引については、第三者と取引をするのと同等の価格で行うように規制をしています。このような税制を移転価格税制と呼びます。なお英語ではTransfer Pricing Rule (通称TPルール)と呼ばれています。

過少資本税制

海外にある子会社や関係会社に対して資金拠出する際に、資本金として出資を行うか、貸付金として融資を行うかという問題が出てきます。お金に色はありませんので、どちらの方法であっても同じお金なのですが、貸し手からすると資本金の場合には配当として、融資の場合には利息として、それぞれ将来的に収益を得る事ができます。一方、借り手側では、配当は税引き後の残余利益から支払われ、利息は税金控除前の営業外費用として支払われます。つまり利息の場合には経費になる分だけ、配当の場合に比べて借り手にとっては税金上有利となります。

親子会社間やグループ会社間では、一般企業と比べ出資比率や財務比率は問題とはならないため、上記の利息の税金メリットを最大限享受するべく多額の借入による多額の利息を計上することで恣意的に借り手の課税所得を圧縮することが可能となってしまいます。

そこで各国の税制上、一定の資本・負債比率を超える負債利子については、利息の損金算入を制限するような規制が行われています。このような税制を過少資本税制と呼びます。なお英語ではThin Capitalization Rule(通称Thin Capルール)と呼ばれています。

タックスヘイブン対策税制

タックスヘイブン対策税制は、日本では「外国子会社合算税制」と呼ばれています。

世界には外国からの投資誘致のため法人税が0%の国や税率が著しく低い国(いわゆるタックスヘイブン)があります。企業や個人のなかには、このようなタックスヘイブンに会社を作り、直接・間接的な取引をつうじて、自国の所得をタックスヘイブンに移転することで税金負担を軽減しようと考える会社や個人がいます。

タックスヘイブン国に会社があるだけで問題となる訳ではありませんが、会社がペーパーカンパニーで実態としては単なる節税のみを目的としたような場合には、タックスヘイブンに流れた所得も自国の所得であると考え、自国で合算課税を行う規定が定められています。このような税制をタックスヘイブン対策税制と呼びます。なお英語ではControlled Foreign Corporation Rule (通称CFCルール)と呼ばれています。

外国税額控除制度

外国税額控除制度とは、海外で納付する税金を自国(日本)の法人税及び住民税から控除する制度です。なお英語ではForeign Tax Creditと呼びます。

例えば日本企業がタイにある子会社から貸付金の利息を受け取った際、当該貸付利息にはタイで源泉所得税が課されています。更に日本では受取利息として収益計上されるため日本でも課税が行われることになります(二重課税)。

このような二重課税を調整するために、日本企業の居住地国である日本において、タイで支払った源泉徴収税額を法人税から控除します(税金額から直接控除しますので税額控除となります)。

外国税額控除が発生するのは、あくまで自社(日本企業)が海外において課税された税金に対してですので、例えば上記の融資による投資所得や株式譲渡益などの譲渡所得、更には海外支店が現地国で支払った法人税等が対象となります。海外の子会社が現地で支払った法人税は、子会社は日本企業とは別法人となりますので外国税額控除の適用はありません。

外国子会社配当益金不算入制度

外国子会社配当益金不算入制度とは、その名のとおり、日本企業の外国子会社からの配当金について一定の要件を前提に受取った側の日本企業(親会社)では益金不算入とする制度です。

この制度は2009年からスタートした制度で、それ以前は上記の外国税額控除制度のなかに組み込まれていました。従来の外国税額控除制度では手続が煩雑であったことや十分な税額控除を得られない場合もあり、日本企業(親会社)の多くは、海外子会社で獲得した利益を日本へ戻さず海外に留保させていたため、日本政府が日本への還流を促すために、新たにこの制度が設けられました。

実際には受取配当金の5%は配当にかかる費用相当額として益金不算入額から控除されますので、95%分が益金不算入となります。また本制度が導入されたため、外国で支払った配当に対する源泉徴収税額については、外国税額控除の適用を受けることができません。

 

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