中小企業における国際税務のポイント

巷に出ている国際税務の専門書を見ると、移転価格税制やタックスヘイブン税制、更には最近はBEPS等、見慣れない専門用語が多く出てきます。しかし中小企業の国際取引のレベルで考えた場合、必ずしも大企業と同じレベルで国際税務を考える必要はありません。

実際に資本金1億円未満の中小企業の国際課税に関する税務調査の際に移転価格税制が論点になることは稀で、その多くは課税認定がより容易な(海外)寄付金が論点となります。つまり、移転価格税制で設定が必要とされる「独立企業間価額」のような複雑・難解な作業は必要なく、むしろ日本国内と同様、国外のグループ会社に対して無償や廉価での取引や役務提供を行っていないか、本来国外グループ会社が負担すべき費用を日本で負担していないか、といった常識的且つ基本的な範囲で対策を講じることで十分な効果を得る事ができます。中小企業では基本的な事項を押さえることが大事なのです。

とは言え、大企業であっても中小企業であっても、最低限理解しておくべき国際課税の基礎知識は存在します。そこで国際課税関係を検討するうえで必要となるポイントを以下で説明したいと思います。

居住地国はどこか?

まず最初に検討すべきポイントは企業や個人の居住地国の判定となります。

居住地国の判定というのは簡単に言えば、「本拠地」がどこの国あるのか、という話です。

日本に本店や居所を持つ企業や個人であれば、居住地国は通常は日本であると考えられます。しかし例えば香港にペーパーカンパニーがある企業の場合や日本とシンガポールの両方に家を持っている個人の場合など実際は「本拠地」の判定が難しいケースもあります。

なぜ「本拠地」の判定がポイントかと言いますと、「本拠地」の所在国では、全世界所得を申告する必要があるためです。一方で「本拠地」以外の国で得た所得については、その国で得た所得分のみに対し、その国で税金を支払うことになります。

また「本拠地」の判定で厄介なのは、日本と相手先国との間で、「本拠地」の判定基準が異なるケースがあるという点です。それぞの国が独自の基準で「本拠地」か否かを判定しますので、最悪の場合複数の国で「本拠地」があると認定されてしまうことがあります(二重居住者と言います)。二重居住者となりますと、それぞれの国で全世界所得を申告することになり、大変思い税負担となってしまいます。

恒久的施設(PE)はあるか?

次に検討が必要となるポイントは恒久的施設(PE)の有無に関する判定です。

恒久的施設とは簡単に言えば、税務上の営業所とイメージすると分かり易いかと思います。

企業が海外に物理的な支店、事務所、工事現場等を有している場合には恒久的施設があるというのはイメージし易いかと思います。但し、事務所があるからと言って必ずしも恒久的施設がある訳ではなく、市場調査や情報収集などの営業活動を行わない事務所(駐在員事務所)の場合には恒久的施設には該当しません。

恒久的施設の判定で注意が必要なのは、代理人に対する恒久的施設の認定です。例えば日本企業の代理人として働いてくれる人が中国におり、自社の代わりに現地での営業活動や取引先との交渉、契約行為を代理してような場合、日本企業自体は中国に支店や営業所はありませんが、代理人自身が「動く支店」として中国に恒久的施設があると認定される可能性があります。つまり代理人は自社の社員と同じであり、実態は自社の社員が中国に駐在して営業活動を行っていることと変わりないということです。

恒久的施設の有無は大変重要な意味を持ちます。

恒久的施設がなければ、所得税源泉地国(外国)で事業所得に対する課税はありません。上記の例で言えば、中国の代理人が恒久的施設として認定されなければ日本企業は中国で受注した売上(事業所得)に対して中国で課税される事はありません。一方、恒久的施設がある場合には、恒久的施設に帰属する事業所得は所得源泉地国(外国)で税金を支払うことになります。

つまり国外に恒久的施設がなければ、日本企業は自社の事業所得は日本でのみ税金を払えば良いことになります(「PEなくして課税なし」と言われます)。但し、ここで言っているのは事業所得(本業の売上)についてのみで、それ以外の所得(例:投資配当や利息、ロイヤリティーなど)は含まれない点には注意が必要です。

所得源泉地国はどこか?

三つ目の検討ポイントは所得源泉地国の判定です。

日本国内で完結する取引であれば所得源泉地国は日本であると簡単に言えますが、2か国が関係する取引については、どちらの国で発生した所得なのか、という判定が必要となります。

例えば日本企業が海外に所有する不動産を売却した場合、この売却益は売主の所在地である日本の所得になるのか、或いは不動産の所在する外国での所得になるのか、といった疑問が出てきます。同様に日本に居住する個人が海外に金融資産を持っていた場合、その利息や配当は個人が居住する日本で発生した所得なのか、或いは金融資産の所在国で発生した所得なのか、といった所得の発生源の特定が必要となる訳です(これを所得源泉地国の判定と言います)。

日本の居住者である企業や個人が海外取引で得た所得については、先ず所得の種類を分類したうえで基本的には以下のルールに基づいて判定を行います。

  • 事業所得(本業収益):外国に恒久的施設が無い限り日本で所得が発生したと考えます
  • 投資所得(利子・配当):投資先で発生したものと考え、現地で源泉徴収が行われます
  • 譲渡所得(売却益):不動産については原則として不動産所在国(外国)で発生したものと考えます

上記の基本ルールをベースに、実際には相手先国との間の租税条約により様々な取り決めが行われています。

租税条約の取り決めは?

最後の検討ポイントは租税条約の取り決めです。

租税条約は二国間の税金に関する条約で、二国間での投資・経済活動を促進するため、複雑な二重課税を排除したり調整するための具体的な取り決めが結ばれています。また二国間の情報交換や紛争解決手段についても租税条約に盛り込まれています。

租税条約は基本的な雛形(モデル条約)があります。全ての国が同じ雛形を利用すれば、ルールが統一化されるのですが、残念ながら相手国ごとにカスタマイズが行われています。そのため条約の内容は相手国毎に異なり、これが国際課税の判定を複雑にしている一因となっています。税制は国益でもありますので、会計制度のように理論だけでは解決できないのです。

そのため日本の居住者である企業や個人が海外取引を行った場合には、必ず日本と取引先国との間で締結された租税条約の有無及び租税条約の内容について、個別に確認を取る必要があります。別の国では問題なかったので、今回も大丈夫な筈だ、という訳には行かないのです。

 

アクセス

住所

〒104-0043
東京都中央区湊3-17-6
和泉ビル

地下鉄新富町駅 徒歩5分
地下鉄築地駅  徒歩7分

営業時間

9:00~18:00

メールでのお問合せは24時間受け付けております。

休業日

土曜日・日曜日・祝日

詳しくはお電話ください。

お気軽にご相談ください。

お問合せはこちら

お電話でのお問合せはこちら

03-6280-5130